熱運動の原理と産業・医療への応用

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熱運動の原理を理解する

■分子運動の関係

我々の身の回りのあらゆる物体は、分子で構成されています。分子は、通常人間には目視することはできませんが、不規則にゆれ動いており、「熱」は、この運動の激しさの程度を示します。熱を多く持っている場合は、分子が激しく動いている状態で、逆に熱が少ない場合は、緩やかにしか動きません。

 

■熱力学の法則

熱や仕事、エネルギーに関連する物理的な現象、法則などを扱う学問分野を「熱力学」と言います。この熱力学には基本となる3つの法則があります。

1) 熱力学の第一法則
熱力学の第一法則は、閉じた系(外部とエネルギーの交換はあるが物質の交換はない系)の内部エネルギー変化は、外部から加えられた仕事と熱量の合計と等しくなるという法則です。

2) 熱力学の第ニ法則
熱力学の第二法則は、熱エネルギーは常に高温側から低温側へ移動し、その逆の移動(低温から高温への自発的な移動)はしないという法則です。この一方向性を「不可逆変化」と言います。

3) 熱力学の第三法則
熱力学の第三法則は、絶対零度 (0ケルビンまたは−273.15℃) において、物質のエントロピー(乱雑さ)が最小限であるということです。絶対零度では全ての分子が基底状態 (もっともエネルギーの低い状態) にあり、エントロピーがゼロに近づきます。

※絶対零度とは、物質の最低温度で分子の運動が最小限に抑えられる温度。

原子や分子の熱運動が激しいほど、エントロピーは高くなります。逆に、温度が低くなるほど、熱運動は小さくなりエントロピーは低くなります。そして、絶対零度(0K)では、熱運動はゼロになり、乱雑さは無くなりエントロピーは0になります。
現実的には絶対零度にはならないため、エントロピーもゼロにはなりません。

※熱力学的な観点においては、絶対零度に近づくほど温度を下げるためのエネルギーが劇的に増加し続けるので、実質、絶対零度になりえない。量子力学的観点においては、不確定性原理(粒子の位置と運動量を同時に特定することが不可能であること)に反するため、絶対零度(原子や分子の運動が停止する状態)になることは理論的に不可能である。

 

■ブラウン運動との関連

スコットランドの植物学者ロバート・ブラウンによって19世紀に発見されたブラウン運動は、微粒子や粒子が液体や気体中で不規則な運動をする現象です。

ブラウン運動は、液体や気体の分子が熱運動によってランダムに動き、その過程で懸濁している小粒子に衝突することで引き起こされます。温度が高いほど、液体や気体の分子の熱運動は活発になり、それに伴ってブラウン運動も活発になります。

 

■日常生活での熱運動の例

日常生活の中では、身の回りに熱運動が多く存在します。

ドライヤーや衣類乾燥機
髪や衣類にしみ込んだ液体中の分子は、温められることで激しく動き、液体から気体へと変化し大気中に放出されることで、髪や衣類が乾きます。

エアコン
部屋の中で、冷たい空気と暖かい空気が接触すると、熱運動によりエネルギーが移動します。これに伴い、温度勾配が発生し空気が対流し、放出した冷風や温風を部屋全体に循環させます。

調理器具
鍋に入れた液体やフライパンに入れた低温の食材に熱エネルギーが移動するなど、これらの過程も熱運動です。

 

物質の三態と温度と熱運動の関係

物質の三態とは、物質の基本的な物理的状態のことで、固体・液体・気体の3つがあります。

・固体は、粒子が非常に密で規則的に配置され、互いに強い相互作用を持ちます。形状は、一定に維持され、外力によって容易に変形することはありません。また体積も一定に保たれます。

・液体は、粒子が固体よりも離れており、不規則に運動します。形状は、容器の底面に沿って流れ、容器の形状に適応します。また体積は一定です。液体は、固体と気体の中間的な性質を持ちます。

・気体は、粒子が非常に乱れて配置され、高速で自由に運動します。気体は、容器の形状にかかわらず拡散し、体積も温度・圧力により変動し、一定に保持しません。

物質の三態 粒子の配置 形状 体積
固体 粒子が非常に密で規則的に配置され、互いに強い相互作用を持つ 一定に維持され、外力によって容易に変形することはない 一定に保たれる
液体 粒子が固体よりも離れており、不規則に運動する 容器の底面に沿って流れ、容器の形状に合わせて流れ適応する 一定に保たれる
気体 粒子が非常に乱れて配置され、高速で自由に運動する 容器の形状にかかわらず拡散する 一定ではない

 

これらの三態は、温度と圧力の変化によって相互に変換することができます。固体は加熱によって液体に変化し、液体はさらに加熱すると気体に変化します。その逆に、気体を冷却すると液体に凝縮され、液体をさらに冷却すると固体に変化します。

 

■固体における熱運動の特徴

固体中の粒子は、密接に配置されており、固定された位置に留まっていますが、これらは静止しておらず振動しています。この振動は、温度が上昇すると振動が活発になります。固体中の熱運動は、熱伝導によって粒子の振動が熱エネルギーを伝達し、固体内で温度は均等になります。

固体は、加熱され融点に達すると、液体の相に変化し、逆に冷却し温度が凝固点に達すると固体の相になります。

 

■液体における熱運動の特徴

液体は固体と比較すると、粒子が固体よりも離れて配置されており、より自由に動くことができます。流動性があるため、外部の圧力や重力によって流れ、さらに温度が上昇すると、分子の動きはより活発になります。

液体は、加熱されて沸点に達すると気体の相に変化します。逆に、気体が冷却されて温度が露点に達すると、液体の相に戻ります。

 

■気体における熱運動の特徴

気体における熱運動は、分子や原子が非常に乱れた状態にあり、高速で運動しています。粒子は高速で動き、衝突し合いながら空間全体に拡散します。温度が上昇すると、分子の速度はさらに増加し、それに伴って気体の圧力または体積が増加します。

 

■熱運動と温度の相関関係

熱運動の活発さは物質の温度に直接関連しています。物質の温度が高くなるにつれて、熱運動は激しくなり原子や分子の運動エネルギーも大きくなります。逆に、温度が低くなると、熱運動は緩やかになり原子や分子の運動エネルギーも小さくなります。

分子や原子の運動エネルギーは温度に比例し、下記の式で表すことができます。

k: ボルツマン定数、T: 絶対温度 (ケルビン)

 

■熱運動が停止する温度

熱運動が完全に停止する温度を、絶対零度 (0ケルビンまたは−273.15℃)といい、これ以下の温度では、物質内の粒子 (分子、原子) の熱運動は完全に停止しますが、現実的には絶対零度になることはありません。

 

熱運動の応用例

■工業分野での活用

工業分野において熱運動はあらゆる分野で活用されています。
例として、自動車や航空機の内燃機関や製造業でのエネルギー供給システム等があります。

自動車や航空機においては、ガソリンやジェット燃料を燃やす内燃機関が動力の源となり、これによりピストンやタービンが動き、車両や航空機を動かします。製造業では、熱機関を用いて工場の機械を動かしたり、プロセス熱を供給したりしています。

 

■医療分野での活用

医療分野においても熱運動は活用されています。
例えば、がん治療においては、ハイパーサミア(温熱療法)という治療法で熱運動が活用されています。

ハイパーサミアは、がん細胞は正常な細胞と比べて熱に弱いことを利用し、がん細胞を体外から電磁波で加熱する治療法です。この治療法では、加熱によってがん細胞内の分子の熱運動が増加します。増加した熱運動が、がん細胞の構造を不安定にし細胞の死滅を促します。

 

■環境分野での活用

環境分野での熱運動の活用例は、地熱エネルギー利用による発電や熱供給があります。

地下の岩盤に蓄えられた熱エネルギーを持った地熱蒸気を抽出して、その熱エネルギーでタービンを回転させ発電したり、暖房システムの熱源として供給しています。

 

■エネルギー分野での活用

エネルギー分野では、電力供給において熱運動を活用しています。

発電所では、石炭、天然ガス、原子力などの燃料を使って水を蒸気に変え、この蒸気がタービンを回して電気を生産します。現代の電力供給の大部分は、この原理に基づいています。

 

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