摩擦・トライボロジーの基礎知識

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トライボロジーとは

■トライボロジーの由来

トライボロジーの言葉自体は、古代ギリシャ語の「摩擦する」を意味する「Tribos」と「学問」を指す「logy」の組み合わせです。しかし、この概念の起源は古代エジプトまで遡ることができます。壁画に描かれたエジプト人が液体を注いで物体の摩擦を軽減する様子から、彼らは人類最初のトライボロジストとも呼ばれています。

数千年後の20世紀、機械の故障と寿命についての理解が深まるにつれ、摩擦、摩耗、潤滑についての科学的な体系化が必要とされました。その結果、1966年にイギリスで「トライボロジー」という新しい学問が提唱され、現代の多くの工業製品や技術に影響を与える重要な学問となりました。

 

■トライボロジーの歴史

トライボロジーは古代エジプトの運搬技術から始まったと言われています。古代エジプト人は、巨大な岩のブロックや像を運搬する際、摺動部を液体で濡らすことで摺動抵抗が低減することを認識していたとされています。

※壁画において、液体を注いでいる男性が描かれており、人類最初のトライボロジストと言われています。

(紀元前1880年)

 

■トライボロジーの定義

20世紀半ば、故障の多発・短寿命・低い信頼性の機械が多く、その原因は、摩擦・摩耗・潤滑に関するものが大半であり、摩擦に関する理解度の低さに起因するとされていました。1966年、イギリスでこれらの摩擦・摩耗・潤滑の「技術」を「学問」として体系化するために、トライボロジー:Tribos(ギリシャ語で摩擦する)+logy(ギリシャ語で学問) として用語が提案されました。

摩擦とは

摩擦とは、相対的に運動している物質間に働く現象で、この分野を扱う学問領域をトライボロジーといいます。実際の物体では、接触面に垂直な成分をもつ力があれば、相対的に静止していても摩擦が発生しています。これを静止摩擦といいます。また、相対的に運動している場合、物体の運動エネルギーは奪われ、周囲に散逸したエネルギーは摩擦熱に変わります。
これを動摩擦といいます。上記の力学技術と、摩擦・摩擦力を上手く利用して設計することが必要です。

 

■摩擦力と摩擦係数

下図に示すように、物体に垂直荷重Wが作用し、床面と接触した状態で床面と平行に引っ張られたときの力を接線方向外力(引張り力) Pとしています。物体と床面には物体の運動方向とは逆の方向に抵抗が生じています。この抵抗を、互いに接触し、かつ相対運動する2面間に、垂直荷重に対して垂直方向に働く摩擦あるいは摩擦力と呼んでいます。

図5

摩擦力と接線方向外力(引張り力)の関係は、以下で表されます。

図6

上記の実験値より、摩擦係数は 垂直荷重をWとして以下で表されます。

図6-1

このように摩擦係数 μ を把握しておくことで、アモントン・クーロンの法則(注)により、簡単に摩擦力F を求めることが可能です。

図6-2

(注)アモントン・クーロンの法則
1696年にフランスのアモントン(G・Amontons)によって摩擦係数の詳細な測定により導かれた経験的な法則で、アモントンの研究から約90年後の1790年に同じくフランスのクーロン(Coulomb)によりこの経験法則が成立することが確認されている。

 

図7

法則(1) 摩擦力は接触する二面間に
作用する垂直荷重に比例する
法則(2) 摩擦力は見かけの接触面積に
無関係である

固体平面の接触

固体の表面は、マクロに見れば平面であってもミクロに見れば凹凸が存在しています。
したがって、平面同士が接触している固体であっても、真実接触面積は見かけの接触面積の数百分の1程度になります。(図.(a)みかけの接触と真実接触)
この固体が荷重を受けるとき、見かけの接触面積ではなく真実接触面積で支えることとなります。

(図.(b)真実接触面積)

図8

図9

凹凸のある2つの固体が重なり合うとき、まず凸部3点が接触することとなります。
この凸部3点でかかる荷重を支えることとなり、許容応力を超えれば塑性変形を起こし、新たな接触点が発生します。

 

■接触面積と応力分布

接触する二つの固体間では、応力分布が重要な要素となります。固体間の接触面積が大きければ大きいほど、応力は分散され、全体的な応力が減少します。

しかし、固体の表面は、微視的に見ると凸凹があり、実際の接触面積は外観上の接触面積よりも非常に小さいです。この微視的な接触面積で荷重が支えられるため、一部の接触面で応力が極端に集中することがあります。これは摩耗や故障の原因となります。

 

■真実接触面積と見かけの接触面積

見かけの接触面積とは、物体同士が接触していると見える面積のことで、マクロ的な視点から見た場合の接触面積です。

一方、真実の接触面積とは、微視的な視点から見たときの接触面積のことで、これは物体の表面の微細な凹凸により接触している部分のみをカウントします。真実接触面積は見かけの接触面積よりもはるかに小さく、この差異は摩擦力や摩耗の計算に大きな影響を与えます。

 

■接触面の形状と接触力の挙動

接触面の形状は接触力の挙動に大きな影響を与えます。接触面の形状が不規則であればあるほど、局所的な接触応力が増大します。

また、接触面の形状が荷重の分散に影響を与え、特定の部分に応力が集中する可能性があります。これは接触面の摩耗や破壊を引き起こす可能性があります。

 

■接触面の形状評価方法

接触面の形状を評価するためには、一般に光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡、光学式干渉計などが利用されます。これらは非接触型の測定器です。

また、接触面に接触して表面粗さを測定する接触型の測定器もあります。これらの機器を使用することで、接触面の微視的な形状や表面の粗さを詳細に調べることが可能となります。接触面の形状と摩擦・摩耗の関係を理解するために、接触面の形状を数値化し、機械的特性との関連を調べる研究も行われています。

トライボロジーの応用

■トライボロジー試験

トライボロジー試験は、摩擦、摩耗、および潤滑の性質を研究および理解するために行われます。試験にはさまざまな形態があり、ピンオンディスク試験、四球試験、ブロックオンリング試験などが一般的です。試験は材料の選択、表面処理、潤滑油の選択など、特定の条件下での材料やシステムの摩擦特性と摩耗率を理解するために行われます。

 

■摩耗

摩耗は、物質の表面が機械的な作用(通常は摩擦)によって徐々に失われる現象です。これは金属、セラミック、ポリマーなどのあらゆる材料に影響を与え、システムの寿命と効率に直接的な影響を及ぼします。摩耗はさまざまな形態をとり、それらは摩擦の種類、応力状態、材料の特性、環境条件などによって異なります。

 

■潤滑

潤滑は、表面間の摩擦を減らすために、潤滑剤が用いられます。これは主に、接触面間に液体(潤滑油やグリース)、固体(グラファイトやモリブデンジスルフィド)、または気体を導入することで達成されます。適切な潤滑が施されると、摩擦と摩耗が大幅に減少し、機械的な性能が向上し、部品の寿命が延長します。このため、トライボロジーは、潤滑の理論と実践の両方において重要な役割を果たしています。

 

トライボロジーに関連する製品や事例

■トライボロジーの製品例

トライボロジーの理論は、私たちの身の回りの数多くの製品の開発と改良に利用されています。例えば、潤滑油やグリースは、エンジンや機械装置の摩擦と摩耗を軽減するために設計されています。

また、各種の軸受(ローラーベアリングやボールベアリングなど)は、軸とハウジング間の摩擦を最小限に抑えるためのものです。さらに、加工工程の中でも、特に切削工程では、切削液(潤滑冷却剤)が、切削工具と加工材料間の摩擦熱を減らすために利用されています。

 

■自動車エンジン用トライボロジー

自動車エンジンは、トライボロジーの原理が豊富に活用されている最も一般的な例の一つです。エンジン内部では、ピストンリングとシリンダーライナー、クランクシャフトとベアリング、カムとフォロワーなど、多くの部品が互いに接触し、高速で運動しています。これらの部品間の摩擦を最小限に抑え、同時に摩耗を防ぐためには、適切な材料選択、表面処理、および潤滑剤の選択が不可欠です。

また、自動車の燃費効率を向上させるためにも、摩擦を抑えることが重要です。エンジンは、エネルギーの大部分を運動エネルギーに変換しますが、その一部は摩擦によって摩擦熱となって無駄になっています。このため、エンジンの摩擦を減らすことで、エネルギーの損失を最小限に抑え、燃費を向上させることが可能となります。

 

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