熱エネルギーの理論と実際

サーマルテクノロジー

いま、エネルギー問題の意識の高まりを受けて、「熱エネルギー」という言葉が大変重みを増しています。熱エネルギーは発電や暖房などで大変身近ですが、意外と難しい概念でもあります。ここでは、熱エネルギーとは何か、熱エネルギーの伝わり方、熱力学の法則について簡単に説明し、最後に熱エネルギー利用の具体例について述べます。

 

 

熱エネルギーとは何か

熱は「エネルギーの一形態」です。エネルギーには運動エネルギーや電気エネルギーなどがありますが、その一種といえます。 例えば、太陽の光は暖かいですが、これは太陽から熱エネルギーが放出されているためです。これを人間が熱を感じて暖かく感じるのです。

また、電気ストーブの場合、電気エネルギーが熱エネルギーに変換されて暖かくなります。 さらに、火力発電は石油や石炭を燃やしたときに生じる熱エネルギーを、電気エネルギーに変換しています。

このように、エネルギー利用の本質は「エネルギー形態の変換」にあるということになり、熱エネルギーはその一形態ということになります。

 

熱エネルギーの伝わり方

熱エネルギーの伝わり方は大きく分けると以下の3つあります。

  • ・熱伝導
  • ・対流
  • ・放射/輻射

それぞれ詳しく説明していきます。

 

■熱伝導による熱エネルギーの伝達

まずは熱伝導についてです。熱伝導とは、熱が物質(特に固体)の内部を伝わる現象を指します。 物質の中には、熱をよく伝えるものと伝えにくいものがあります。例えば、金属は熱をよく伝えるため、フライパンなどに利用されます。 また、グラスウールは熱を伝えにくいため、建物などの断熱材として利用されます。

 

■対流による熱エネルギーの伝達

次に対流についてです。対流とは、流体(液体・気体)内部で温度差があると、流体が上昇・下降する現象のことを指します。

自然対流は、流体の温度差によって発生する現象で、身近なものでは、「天気」が該当します。天気は太陽の熱で海水が蒸発し上空に雲を作ります。そして、上空で冷やされて雨が降ります。これが、自然対流の最も典型的なものです。

強制対流は、ポンプなどの力によって流体を動かすことで発生します。自動車のエンジンや空調設備の中の冷媒の流れ、並びに扇風機による風の流れなどがその代表的な例です。

 

■放射による熱エネルギーの伝達

最後に放射についてです。放射とは、物質中の原子や分子が発する電磁波によって熱が伝わる現象を指します。 太陽からの光や、ラジオやテレビなどの電波も電磁波の一種です。放射による熱エネルギーの利用方法として、太陽光発電や電子レンジがあります。電気ストーブも身近な例です。 放射は輻射(ふくしゃ)とも言います。

 

熱エネルギーと熱力学

■熱力学とは?

熱力学とは熱の挙動や性質を説明する学問分野です。熱の挙動や性質は「熱力学の法則」という基本原則に支配されています。詳しく説明していくと大変難解な理論なので、ここでは概略のみを説明します。

熱力学の法則は3つあり、それぞれ「第一法則」「第二法則」「第三法則」と呼ばれます。

 

■熱力学第一法則を利用した熱エネルギー

熱力学の第一法則は、エネルギー保存則とも呼ばれ、閉じた系においてエネルギーは保存されるという法則です。つまり、ある系の内部エネルギーの増減量は、外部からの熱や仕事の入出力によって決まります。

この熱力学の第一法則を利用して、熱エネルギーを得る方法があります。例えば、火力発電所では、燃料を燃やして発生した熱エネルギーを水蒸気に変換し、タービンを回して発電します。ここで、熱エネルギーが発電に変換される過程で、熱力学の第一法則が働いていることになります。

また、ガソリンエンジンやジェットエンジンなどの内燃機関も、熱力学の第一法則を利用した熱エネルギーの変換が行われています。内燃機関では、燃料を燃やして発生した熱エネルギーを、ピストンの運動によって仕事に変換し、車輪を回して動力を発生させます。

以上のように、熱力学の第一法則を利用して、熱エネルギーを得ることができます。ただし、実際には完全に閉じた系を構築することは不可能で、系の外に熱が逃げてしまいます。そのため、熱エネルギーを得る過程で、多かれ少なかれ熱損失が生じます。そこで、熱効率を高めるための工夫が必要となります。

 

■熱力学第二法則を利用した熱エネルギー

熱力学の第二法則は、熱力学の法則の1つで、熱エネルギーの移動についての物理法則です。この法則に基づく技術は、熱エネルギーを使って仕事をすることができるため、多くの工業プロセスで使用されています。

熱力学の第二法則は、熱は常に高温から低温へと流れることを示しています。つまり、熱は温度勾配に従って流れるため、高温側から低温側に向かって移動します。この過程によって、熱エネルギーは仕事に変換されます。

この法則に基づく技術として代表的なものに、熱電発電があります。熱電発電は、温度差を利用して電気を発生させる方法で、熱電素子と呼ばれる半導体材料を使用しています。熱電素子は、異なる温度を持つ2つの金属を接合し、温度勾配が発生することで電位差を生じさせます。この電位差を利用して電気を発生させることができます。

ヒートポンプも熱⼒学の第⼆法則に基づいて動作しています。 ヒートポンプは、エアコン内部の仕組みです。

冷房として使用するときは、凝縮された液体の冷媒を室内側に送り込み、室内側で液体から気体に蒸発させます。このときに冷媒が空気の熱を吸収するため、温度勾配が生じ、熱を吸収された冷たい空気を室内に送ることができます。

暖房として使用するときは、蒸発した気体の冷媒を室内側に送り込み、室内側で気体から液体に凝縮させます。このときに冷媒が空気に熱を放出するため、温度勾配が生じ、加熱された温かい空気を室内に送ることができます。

冷房と暖房は、動作が逆の関係にあります。 このようにヒートポンプは冷房や暖房に利用されています。

【加熱】

加熱

【冷却】

冷却

 

熱力学の第二法則に基づく技術は、エネルギーの効率的な利用ができるため、省エネルギー技術やエコテクノロジーなどにも応用されています。

 

熱エネルギーの実際

■太陽熱利用による熱エネルギー

太陽熱を利用した熱エネルギーの取得方法には、直接的に太陽光を利用する太陽光発電と、太陽光を熱エネルギーに変換して利用する太陽熱利用があります。ここでは、太陽熱利用について説明します。

太陽熱利用は、太陽光を集めて熱エネルギーに変換し、それを用いて暖房や給湯、冷房などの用途に利用する方法です。代表的な太陽熱利用システムには、太陽熱温水器や太陽熱冷凍システムがあります。

太陽熱温水器は、太陽光を集めて太陽熱集熱器で水を加熱し、その熱を貯水タンクに蓄えて利用するものです。日本では、住宅に設置されることが一般的で、温水供給用に利用されます。太陽熱温水器は、太陽光がある限り熱源が確保できるため、長期的に見て省エネルギーに貢献することができます。

太陽熱冷凍システムは、太陽光を集めて太陽熱集熱器で熱媒体を加熱し、それを用いて冷媒を蒸発させ、冷房を実現するものです。これにより、電力を使わずに冷房を行うことができます。太陽光を集めるために十分なスペースが必要であり、屋根や壁面に設置することが困難な場合があります。

太陽熱利用は、太陽光を利用した省エネルギーの取得方法として、今後も注目される技術です。

 

■地熱発電による熱エネルギー

地熱発電は、地球の内部に蓄えられた熱エネルギーを利用した発電方式です。地熱発電は、地球上の熱水や蒸気、地熱エネルギーを利用して発電する方法であり、主に地熱帯や火山地帯に位置する発電所で採用されています。地熱発電は、排出される二酸化炭素量が少なく、再生可能エネルギーであることから、エネルギーの持続可能性に配慮したエネルギー源として注目されています。

地熱発電は、熱水や蒸気を利用して発電する方式として、直接利用型、間接利用型、混合利用型の3つに分類されます。

直接利用型は、熱水や蒸気を直接利用する方式で、スチーム型発電方式やフラッシュ蒸気型発電方式と呼ばれる方法があります。

間接利用型は、地熱水を熱交換器に通し、二次熱媒体を加熱して発電する方式です。オーガニックランキンサイクル発電方式やカルシウムアンモニウム塩発電方式と呼ばれる方法がありますがあります。

混合利用型は、直接利用型と間接利用型の特徴を併せ持った方式で、バイナリーサイクル発電方式があります。

地熱発電は、地熱帯や火山地帯など、特定の地域でしか実施できないため、地熱エネルギーを有効活用するためには、その地域の資源を十分に把握し、利用計画を練ることが必要です。また、地熱発電所の建設には高いコストがかかるため、財政的な支援や技術的な協力が必要となります。

 

 

熱エネルギーにもっと注目して学んでいこう

以上、熱エネルギーについて簡単に述べました。冒頭でも述べたように、近年、環境意識の高まりから、エネルギーの概念に注目が集まっています。単に「エネルギー」と言った場合に「熱」をイメージする人も多いのではないでしょうか。それだけ、熱エネルギーはもっとも身近なエネルギーということです。

そして、熱エネルギーの利用をできるだけ効率的に行うことは、地球環境の問題解決につながっていきます。みんなで関心を持って学んでいきましょう。

 

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