永久磁石の仕組みや種類、製造方法について解説

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永久磁石とは何か

 

■永久磁石の定義と特徴

永久磁石は、一定方向に磁場を発生させ、磁力を長時間保持することができる磁石のことです。永久磁石は、鉄などの強磁性体を用いて作られており、一度磁化されると外部から磁場を加えなくても長時間磁力を保持し続けます。

永久磁石は、自動車や家電製品、医療機器、工作機械、発電機など、様々な分野で利用されています。また、環境にやさしいエネルギーの一つである風力発電においても、永久磁石を使用しています。

 

■永久磁石の種類と用途

一般に、永久磁石にはアルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石などがあります。それぞれの特徴と用途を見てみましょう。

 

  • ・アルニコ磁石
  • アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄などの合金からできた磁石で、熱に強く、耐食性があります。
  • 高い磁気特性を持ち、発電機やモーター、マイクロホンなどに利用されます。
  •  
  • ・フェライト磁石
  • 酸化鉄と酸化ストロンチウム・バリウムなどの混合物からできた磁石で、価格が安く、磁気的に安定しています。
  • 音響機器、電子機器、玩具、家電製品などに使われます。
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  • ・ネオジム磁石
  • ネオジム、鉄、ボロンからできた磁石で、高い磁気特性を持ち、小型でありながら強い磁力を発揮します。
  • ハードディスクやスピーカー、電動工具などに利用されます。
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  • ・サマコバ磁石
  • サマリウム、コバルトからできた磁石で、高い温度安定性を持ち、高温環境でも磁性を維持します。
  • 航空宇宙産業や高温環境での用途、特定の高度なモーターやセンサーなどに利用されます。

 

■永久磁石の仕組みは?

永久磁石は、磁気の最小単位が自発的に磁化した状態を保持する素材です。磁化は身近なところでも起きており、強磁性体(鉄、コバルト、ニッケルなど)に対して、強力な磁場を印加することで磁化します。

例えば、小学生の時の理科の実験では、針に一定方向に磁石を何回か当ててこすると、針が磁石化して、他の針を引き付ける、という実験をやりましたが、これが「磁化」と呼ばれる現象です。

 

■永久磁石のメリットとデメリット

永久磁石には、以下のようなメリットがあります。

【メリット】

  • ・電源不要で使用可能
  • 永久磁石は、外部から電力を供給されることなく磁力を発生させることができます。
  • そのため、設置場所が限られる場合や、電力供給が困難な場所でも使用が可能です。
  •  
  • ・強い磁力を持ち、長期間磁力を維持
  • 永久磁石は、強い磁力を持ち、外部からの影響を受けにくいため、長期間磁力を維持することができます。
  • また、磁力の強さは、磁石の形状や材料、製造方法によって調整することができます。
  •  
  • ・磁気的な安定性が高い
  • 永久磁石は、温度や振動、衝撃などの外部要因による磁力変化が小さく、磁気的な安定性が高いという特徴があります。

 

一方、永久磁石には以下のようなデメリットもあります。

【デメリット】

  • ・磁力の強さに限界がある
  • 永久磁石は、材料や製造方法によって磁力の強さを調整できますが、一定の限界があります。
  • 大きな磁力を必要とする場合には、電磁石などの他の磁気素子を使用する必要があります。
  •  
  • ・高温や強い振動に弱い
  • 永久磁石は、高温や強い振動にさらされると、磁力が低下する場合があります。
  • そのため、使用環境に応じて、適切な材料や形状、製造方法を選択する必要があります。
  •  
  • ・磁力の逆転が難しい
  • 永久磁石は、一度磁化された方向に磁力を持ち続けるため、磁極の逆転が難しいという特徴があります。

 

■永久磁石の歴史

永久磁石は、紀元前800年ごろに中国で発見され、現代の磁石に至るまで様々な発展を遂げてきました。

西暦1600年代には、英国の物理学者ウィリアム・ギルバートが、磁力の基本的な性質を研究し、磁石をよりよく理解する手がかりを提供しました。

19世紀には、フランスのアンペールが磁力の単位を提唱し、磁気の特性を理論化することに成功しました。その後、アメリカのトーマス・エジソンは、永久磁石を用いた直流発電機を開発し、電気の普及に大きな貢献をしました。

20世紀に入ると、東北大学の本多光太郎博士が、これまでの強力磁石の3倍もの磁力を持つ磁石合金鋼「KS鋼」を発明しました。 さらにその後、現在も世界最強の永久磁石として知られるネオジム磁石が日本で開発されました。

現在では、永久磁石の研究・開発が進み、新しい種類の永久磁石が次々と開発されています。これらの永久磁石は、医療機器、自動車、家電製品など、様々な分野で使用されており、人々の生活や産業に大きな貢献をしています。

 

永久磁石の製造方法と取り扱い

永久磁石の製造には様々な材料と工程が用いられています。また、永久磁石は取り扱いにも注意が必要です。以下では、永久磁石の製造方法と取り扱いについて詳しく見ていきます。

 

■材料と製造工程

永久磁石の主な種類には、フェライト、ネオジム、サマリウム・コバルトなどがあります。それぞれの材料には磁気特性や耐熱性、耐蝕性が異なり、用途に応じて使い分けられます。

永久磁石の製造には、主に以下の工程があります。

  • ・溶解・粉末製造
  • 永久磁石を製造するためには、まず原料となる材料を溶解し、細かく粉砕します。
  • その後、適切な比率で混合し、さらに加熱・焼結することで、均一な粒子サイズと磁性を持った粉末が得られます。
  •  
  • ・成形・焼結
  • 粉末を必要な形状にするため、成形工程を行います。
  • 一般的には、加圧成形や射出成形、圧延成形などが用いられます。その後、焼結工程を行い、固体の磁石素材となります。
  •  
  • ・磁化処理
  • 焼結された磁石は、強力な磁場の中で磁化処理が行われます。磁場の強さや磁極の向きによって、磁石の磁気特性が決まります。
  •  
  • ・切断・仕上げ
  • 磁石は必要な大きさに切断され、仕上げが行われます。切断時には摩耗や粉塵の発生に注意が必要です。

 

■品質と性能評価

永久磁石の品質と性能評価は、その磁力と安定性に大きな影響を与えます。
品質が劣ると磁力が低下するだけでなく、磁力の安定性にも影響が出るため、長期間にわたる使用に耐えられなくなる可能性があります。永久磁石の品質と性能評価には以下のような項目があります。

 

  • ・磁力
  • 永久磁石の磁力は、磁場の強度で測定されます。磁力は一定の温度・湿度条件下で測定されるため、使用環境によっては磁力が低下することがあります。
  •  
  • ・磁気特性
  • 永久磁石は、磁力の強さや磁気の安定性(常に安定した磁力を保てるか)、磁気異方性(磁石の方向によって磁力が異なるということ)などの磁気特性があります。
  • これらの磁気特性は、材料や製造方法によって異なるため、磁石の種類に応じた適切な磁気特性を選択する必要があります。
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  • ・耐久性
  • 永久磁石は、外部環境や使用環境にさらされるため、耐久性が求められます。
  • 特に、高温、湿気、振動、衝撃などの要因が磁力や磁気特性に影響を与えるため、これらの要因を考慮した耐久性試験が必要です。
  •  
  • ・外観
  • 永久磁石は、使用環境に応じた形状やサイズに加工する必要があるため、外観も品質評価の対象となります。
  • 表面の傷や割れ、表面処理の均一性などが品質評価のポイントです。

 

■保管方法と注意点

永久磁石は、強い磁力を持っているため、他の金属部品や磁気ストレージ媒体(ハードディスク、フロッピーディスク、磁気テープなど)に近づけることは避ける必要があります。磁気ストレージ媒体に磁力が作用すると、データが消失する可能性があります。

また、永久磁石は、温度によって磁力が変化するため、高温や低温の場所に保管することは避ける必要があります。保管場所の温度は、永久磁石の許容温度範囲を超えないように注意する必要があります。

さらに、永久磁石は、落下や強い衝撃を受けると磁力が弱まることがあります。保管する際には、軟らかい素材で覆って保管するか、専用の収納箱に保管することが望ましいです。

一方、永久磁石の品質と性能評価については、以下のような要素が重要です。

まず、永久磁石の磁力は、温度や外部からの磁場などの影響を受けます。そのため、磁力計を使用して、磁力の強さを定量的に評価する必要があります。

また、永久磁石は、異物混入や欠陥がないかどうかも確認する必要があります。異物混入があると、磁力が弱くなる原因となります。欠陥がある場合は、強度が低下し、磁力が弱くなることがあります。

さらに、永久磁石は、表面処理や形状によっても性能が変化するため、その特性を正確に評価する必要があります。評価方法としては、磁力計や磁気力顕微鏡などを使用して、表面形状や磁力分布を評価することがあります。

 

永久磁石の市場動向と今後の展望

永久磁石は、エレクトロニクス、自動車、医療機器、風力発電、磁気浮上式鉄道など多岐にわたる分野で使用されています。

現在、世界的には中国が永久磁石の生産量・輸出量のトップです。日本も、永久磁石の研究・開発を進めてきた歴史があり、高品質な製品を提供することで、高い技術力を誇っています。

 

■現在の市場規模・市場動向

世界での永久磁石の市場規模は、2022年では約382億ドルと評価され、2028年には737億ドルに到達すると予測されています。

ハイブリット電気自動車における需要の増加をはじめ、ドアロック、ワイパー、スピーカー、電動ウィンドウレギュレータ等の部品等、自動車業界の需要が高まっており、今後も市場拡大が見込まれています。

さらには、先進国を中心に、電気自動車のシェアも拡大しており、大手自動車メーカーが電気自動車に永久磁石モーターをより採用することで、市場の成長をされに推進すると考えられえます。 またパソコン、テレビ、スマートフォン等の家庭用電化製品等の電子部品における用途も、需要増加をもたらすものとなるでしょう。

一方で、永久磁石の製造に使用されるレアアースなど原材料価格の高騰が、市場の抑制要因になる可能性もあります。

 

■永久磁石の技術革新と新たな応用分野

永久磁石は、その高い磁気特性と長期的な耐久性から、様々な分野で広く使われています。特に、自動車、電子機器、エネルギー、医療、環境などの分野での需要が高まっています。こうしたニーズに応えるために、現在、永久磁石の技術革新が進んでいます。

一方、永久磁石には課題もあります。例えば、永久磁石を製造する際に使用されるレアアースの供給不足が課題となっています。

この課題については、永久磁石の材料に関する研究が進んでいます。最近の研究では、永久磁石に使われるレアアースを減らすことによって、磁気特性を維持しながら環境に優しい素材を使用することが可能になっています。

また、永久磁石を応用した新技術も注目されています。例えば、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構より発表された資料によると、モーター設計の基盤技術向上と、従来の2倍性能の新磁石開発を目指し、高効率モーター開発目標(40%&40%)の達成を目指すとしています。
参照元:NEDO(https://www.nedo.go.jp/content/100953943.pdf

 

永久磁石はこれからも需要が拡大していくでしょう

以上、永久磁石の概要とその応用について述べました。永久磁石は長い歴史を持つ部品ですが、今後は、永久磁石の材料に関する研究や新技術の開発によって、課題が克服されることが期待されます。そして、永久磁石の応用分野がさらに広がっていくことになるでしょう。

 

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