ヨーク(継鉄)で磁力は強くなる ― ヨークで磁力をコントロールする
磁力を強くする方法として、効率の良い手法で挙げられるのがヨーク(継鉄)の使用です。ホワイトボードなどへくっつけるマグネット画鋲(マグネットボタン)を例に、ヨークの磁力増強を説明します。マグネット画鋲(マグネットボタン)は、ケースがプラスチック製、上下着磁のフェライト磁石にヨークをかぶせた構造になっています。結論を先にいうと、ヨークの真ん中に磁石切片がある形状が最も磁力をすることができます。
■以下のA<B<C の順に、磁石の吸着力は強くなります
A ケースにヨークなし・磁石のみを配置した場合磁力線は磁石のN極から出てS極に入っているが、磁力線が広い面積で発生して拡散しているので、吸着力は小さい。
B ヨークの片側に磁石が配置されている場合
N極から出た磁力線がヨーク(継鉄)に集まり、ヨークを介して狭い隙間を通ってS極に戻るので吸着力はAより高い。
しかし波線で示した箇所で磁石がヨーク側面に偏ってN極とS極が短絡状態になっているため、吸着力はCより落ちる。
C ヨークのセンターに磁石がある場合
N極から出た磁力線はヨークを介して理想的な状態でS極に戻る。
N極、S極の短絡状態が発生していないので、最適な吸着力を得ることができる。
■なぜ磁石より薄いヨークで磁力(磁力線の束)をたくさん運ぶことができるのか
フェライト磁石より鉄の方がおよそ3倍の残留磁気を保ちます。このためヨークの厚みが薄くても、たくさんの磁束を運ぶことができます。
左図の●箇所が磁束を運ぶパイプとみなし、フェライト磁石と鉄を比較してみます。
磁束を運ぶパイプの数は、およそフェライト1:鉄3ほどの比になります。このため鉄はフェライト磁石の約3倍の磁束を運ぶことができるのです。
湿式と乾式 ― 製法で磁力をコントロールする
異方性フェライト磁石に限り、製法で磁力の強弱をコントロールすることができます。
異方性フェライト磁石には湿式異方性と乾式異方性があります。
より大きな磁気エネルギーを得る必要がある時は、湿式異方性が使われます。
なお写真でも分かる通り、製法による外観差はなく目視では湿式と乾式は見分けられません。
湿式異方性フェライト磁石
湿式は原料の微粉末に水分を加え泥状の微粉末とし磁場中にて脱水しながらゆっくりプレス成形したもの泥状(スラリー状態)のものを脱水しながら成形するため、磁性粒子のすべりが良いことから、結晶の方向がそろえやすく、配向度が上がり、高密度を得ることができます。
乾式異方性フェライト磁石
原料の微粉末にバインダー(スチロール類)を加えた粉末状態で成形するため、
結晶方向の整列に当っては、自由度が湿式に比べて小さくなります。
減磁界の影響(自己減磁作用) ― サイズで磁力をコントロールする
磁化された磁石は、表面に生じる磁界はN極からS極へ向かいますが磁石内部では磁化の方向とは逆向きにHdになる磁界が働きます。
この内部の磁場を減磁界といい、磁石を減磁させる方向に働きます。
この減磁界は磁石の寸法比により異なり、磁化方向に細長い磁石ほど小さくなります。
自己減磁の影響はBH曲線上の動作点における磁束密度Bdと減磁界Hdの比で表されます。
■パーミアンス係数
動作点の磁界Hdと磁束密度Bdの比をパーミンス係数といい、Pcで表します。
これを減磁曲線上で考えると、傾きを持った直線となります。
この直線を動作線、減磁曲線との交点を動作点といいます。
パーミアンス係数が大きくなると動作線の傾き方はB軸側に近づき、小さくなるとH軸側に近づきます。
パーミアンス係数は、磁石の形状に依存します。単純な形の場合、計算で近似的を求めることができます。
aは補正係数であり、通常1.2~1.4程度です。
磁気履歴曲線 ― ヒステリシスループで磁力をコントロールする
磁気履歴曲線(ヒステリシスループ)は、磁場の強さとその磁場で磁化される物質の磁束密度 B または磁化 J の関係を表す曲線です。
残留磁束密度(Br)
磁性材料を磁化する時、着磁コイルの電流を次第に増加させて磁場を強くし磁化すると磁性材料中の磁束密度もそれに伴い増加します。
ところが、あるところで飽和してしまいます。それ以上磁束密度があがらなくなります(左図a点)。
次に飽和状態から電流を減らして磁場の強さを減少させると、磁束密度はaから0に戻らずaからbに沿って減少します。
そして磁場の強さが0になっても磁束密度はbの値だけ残ってしまう現象があります。この値を残留磁束密度(Br)といいます。
永久磁石はこの現象を利用して製造されています。
保磁力又は抗磁力(Hc)
電流の向きを逆にして反対方向に磁場を増加させると、磁束密度はb点から次第に減少してc点にて0になります。この磁場の強さを保磁力又は抗磁力(Hc)といいます。まわりの磁場に逆らい、なんとか磁束密度ゼロを保っている状態、つまりN極S極どちらにも磁力がはたらいていないギリギリの地点です。
さらに逆の磁場を増していくと磁石は逆向きに磁化されd点で飽和状態になります。 d点ではa点時とN極・S極が完全に逆転します。
このように磁性材料の周囲の磁場を漸次変化させることにより、磁石の磁束密度は a → b → c → d → e → f → aと一定のサイクルに従い変化する性質を持っています。
このひよこ菓子のような軌跡を、磁気履歴曲線(ヒステリシスループ)といいます。
ソフトフェライトとハードフェライトのヒステリシス特性の違い
ソフトフェライトに比べハードフェライトは保磁力が大きいので磁石に適しています。
ハードフェライトは磁石に使用され、
ソフトフェライトはノイズ対策用のコア又は磁気ヘッドに多く使用されています。
BH積
BH積は、磁石の4つの特性値 ― 残留磁束密度Br、保磁力Hc、最大エネルギー積(BH)max
リコイル率μr ― の中の一つであり、磁石の強さの尺度です。
ヒステリシスループの第2象限(減磁曲線)の一点における磁束密度(Br)と
磁界の強さ(H)との積の最大値をいいます。
残留磁束密度や保磁力が大きいだけでなく、ヒステリシスループが角形になるほど最大エネルギー積が大きくなって強力な磁石となります。
通常、BH積の値の大きい磁石ほど吸着力の強い磁石であると、とらえていただければ良いでしょう。
磁束密度の算出式/吸引力の算出式
磁石の動作点がB-H曲線の直線部分、即ち屈曲点より上にある場合は以下のように近似計算が可能です。
※ 算出式はCGS単位系に基づいています。またこれらの算出式によって得られた値は、設計値を保証するものではありません。計算結果は実際の磁石でご確認ください。
円柱形磁石の中心軸上の磁束密度算出式
磁石背面に磁性体(ヨーク)がある場合の磁束密度算出式
角柱形磁石の中心軸上の磁束密度算出式
同一形状の磁石が対向している場合の磁束密度算出式
円筒形磁石の中心軸上の磁束密度算出式
同一形状の磁石が対向している場合の吸引力の算出式
空間磁束密度は磁石単体の表面磁束密度とは異なる値ですのでご注意下さい。多くの場合、空間磁束密度は空間位置によって異なります。上式はあくまで目安としてご使用下さい。