磁束密度とその単位についての解説

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「磁力」の強さを表す専門用語に「磁束密度」という言葉があります。ここでは、磁束密度の定義や、磁束密度の単位、ヒステリシスカーブとの関係などについて説明し、最後に実際に磁石を製品に使用する場合に磁束密度を考慮することが重要である根拠を記載しております。

 

 

磁束密度とは

■磁束密度の定義

磁束密度とは、ある磁場内に存在する磁力の強さを表す物理量です。

磁気は電磁気学の中で理論的に説明されていますが、この電磁気学では、磁場を表現するのに仮想的な「線」を考えます。これを「磁束線」と言います。また、この磁束線の束のことを「磁束」と言います。

つまり、同じ磁場の面積ならば、磁束線が多くある方がその磁場の磁力は強いということになります。また、同じ数の磁束ならば面積の小さい方が磁場が強いということになります。

そこで、単位面積あたりの磁束を考えて、この単位面積当たりの磁束の数(密度)の値で磁界の強さを考えるのが一般的です。この「磁束線の密度」のことを「磁束密度」といいます。

この磁束密度は、磁場の性質や振る舞いを理解する上で極めて重要な概念となっています。そして、物質の磁化状態や電磁波の特性などを評価する際にも使用されます。

 

■磁場との関係

磁場は物質を通過する磁力線の集合体であり、磁束密度はその磁場の強さを定量的に表現する手段といえます。具体的には、磁場の中の一点を通過する磁束線の密度が高ければ高いほど、磁束密度も高くなります。

逆に、磁束線の密度が低ければ、磁束密度も低くなります。このように、磁束密度が磁場の強さを直接表していると言っていいでしょう。

 

■磁力線と磁束線の違い

磁力線と磁束線は、ともに磁場を視覚的に表現するための方法ですが、その定義と特性は少々異なります。

磁力線とは、N極から出てS極に入る想像上の線で、磁場の強さや方向を表します。そして、磁力線の本数は、物質の透しにくさを表す透磁率によって変わります。つまり、磁力線の密度は磁石の周囲の物質の性質によって変化します。

一歩、磁束は、周りの物質の透磁率とは関係がありません。つまり、磁束の方が周囲の物質の影響を受けることなく、磁石の性能そのものを表しているということです。

つまり、磁力線と磁束の違いは、

  • ・磁力線は透磁率によって本数が変化するが、磁束は透磁率に関係なく一定であること。
  • ・磁力線はN極とS極に始点と終点があるが、磁束は始点も終点もなく一周すること。
  • ・磁力線は磁石内部では通らないが、磁束は磁石内部でも通り抜けること。

ということになります。このため、磁石の性能を表す場合には磁束密度の指標が用いられることが多いのです。

 

磁束密度の単位

■ガウスとテスラ

磁束密度の単位には、「ガウス」と「テスラ」の二つが主に使用されます。

「テスラ」は国際単位系(SI単位)における磁束密度の単位です。単位の名前の由来は、ニコラ・テスラ(19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したセルビア系クロアチア人の発明家・物理学者)にちなんで名づけられました。

一方、センチメートル・グラム・秒単位系(CGS単位)における単位は「ガウス」と呼ばれます。由来は、ドイツの数学者・物理学者であるカール・フリードリッヒ・ガウスにちなんで名付けられました。

 

■単位変換方法

これらの単位間の変換はシンプルで、1テスラは10,000ガウスに等しいという関係があります。つまり、磁束密度をテスラからガウスに変換するには、値に10,000を掛けます。逆に、ガウスからテスラへの変換は、値を10,000で割ります。

 

■SI単位系とCGS単位系の違い

SI単位とCGS単位の主な違いはその適用範囲です。大きなスケールでの科学的、工学的な計測ではSI単位(テスラ)が使われ、物理学や地磁気学など特定の分野ではCGS単位(ガウス)が用いられる傾向にあります。

ただ、近年では、SI単位系を使用する方向になっています。工学系の専門書などでは、昔はCGS単位系で書かれていたものが、現在ではSI単位系で書かれています。業界によっては、CGS単位系の利便性を活用している場合もあります。

 

磁束密度の計算

■磁束密度の公式

冒頭で述べたように、磁束密度は「単位面積あたりの磁束」ですから、以下の公式が当てはまります。なお、ここでは単位系はSI単位系を用いています。

具体的には、磁束密度B(単位:テスラ)は磁束Φ(単位:ウェーバー)を面積A(単位:平方メートル)で割った値として計算されます。数式では以下のようになります。

B = Φ / A

この公式は、一定の磁場内で磁束密度を計算する際に特に有用です。

 

 

磁束密度の実用

■磁石加工と飽和磁束密度

磁石加工において、飽和磁束密度を考えることは極めて重要です。飽和磁束密度は、磁石の性能を決定する要素の一つです。したがって、モーターやジェネレーターなど、強力な磁場が必要なアプリケーションでは、高い飽和磁束密度の磁石が必要となることが多いです。

 

■工業分野での磁束密度

工業分野でも磁束密度をしっかり考える必要があります。例えば、モーターやトランス、電磁リレーなどの電気機器においては、磁束密度の制御がパフォーマンスを大きく左右します。また、磁気記録媒体の性能も、磁束密度に依存しています。さらに、医療機器や科学研究の分野では、MRI(磁気共鳴画像法)のような高度な技術においても磁束密度を考えることが重要です。

 

■飽和磁束密度とその意義

飽和磁束密度とは、物質が保持できる最大の磁束密度のことを指します。これ以上の磁場が加えられても磁束密度は増えず、物質は磁場の影響を受けなくなります。飽和磁束密度は材料の選択や磁気デバイスの設計において重要な指標となり、特に電磁石やトランス、インダクタなどのコンポーネントでは、飽和を避けるための対策が必要となります。

もっとも、これらの、電磁石やトランス、インダクタの性能は、流す電気と磁石の相互作用(電磁誘導)によって性能が決まるため、流す電流の強さによって必要な飽和磁束密度も変わってきます。

また、飽和磁束密度の高い磁石は一般的に高価なため、現実の部品選定でのコスト面の考慮も必要になります。

磁石の種類によって、飽和磁束密度の値はさまざまなものがあります。専門家の意見を参考にしながら適切な飽和磁束密度の磁石を選ぶことが重要です。

 

■飽和磁束密度とヒステリシスカーブ

磁性体の性質として、磁場(印加磁界)を上げていった時の磁束密度の変化と、磁場を下げていったときの磁束密度の変化は一致しません。このため、この特性は閉じたループ状の曲線となります。この特性を「ヒステリシス」といいます。

ヒステリシスカーブ(Hysteresis Curve)は、この磁性材料の磁化と外部磁場の関係を表すグラフです。ヒステリシスカーブは、外部磁場を増加させていき、それを減少させるときに磁性材料の磁化がどのように応答するかを示します。これにより、磁性材料の磁気的なエネルギー損失や磁気的な遅れ現象を評価することができます。

ヒステリシスカーブは、磁場の強さを横軸に、磁性体の磁束密度を縦軸にとったものです。つまり、磁性体に磁場をかけていった時の磁束密度の変化を表しています。また、磁性体にかけた磁場を減らしていったときの磁束密度変化も表しています。

ヒステリシスカーブ上で飽和磁束密度を表す所は、ヒステリシスカーブ上の最も磁束密度の高い所となります(第1象限にあります)。また、磁石はN極とS極があるので、磁束密度の最も低い所も飽和磁束密度となります(第3象限にあります)

特徴的なのは、第1象限のこの点は、磁場をいくらかけてもこれ以上磁束密度は上がらない点です。また第3象限の点は、磁場をいくらさげてもこれ以上磁束密度は下がらない点です。

最も注目される点が、一度かけた磁場をゼロに戻したとき、磁束密度がいくらの値なのかという点です。これが磁石の強さを決める値となります。

このように、ヒステリシスカーブは磁性体の特性を表す基本的なグラフで、その磁石の材質によって異なります。また、温度によっても変化します。このため、磁石の材質の選定に当たっては、この特性をベースにして考えることが多いです。

 

SI単位とCGS単位の換算

物理量 記号 単位 単位換算
SI単位系の場合 CGS単位系の場合 SI単位系からCGS単位系へ CGS単位系からSI単位系へ
名称(関係式) 記号 名称(関係式) 記号
磁束 Φ ウェーバ
(Φ=BA )
Wb マクスウェル
(Φ=BA )
Mx
Maxwell
1Wb=108Mx 1Mx=10-8Wb
磁束密度 B テスラ T ガウス G 1T=104G 1G=10-4T
磁気誘導
磁気定数
(真空透磁率)
μ0 ヘンリー毎メートル
4π×10-7
H/m 無名数
(μ0=1)
透磁率
(絶対透磁率)
μ ヘンリー毎メートル
(μ=μ0μr)
H/m 無名数
比透磁率 μr 無名数
(μr=μ/μ0)
無名数
(μr=μ)
SI単位系とCGS単位系は同一
磁界の強さ H アンペア毎メートル A/m エルステッド Oe
磁気エネルギー積 BH ジュール毎
立方メートル
(BH)
J/m3 ガウスエルステッドまたは
エルグ毎
立方センチメートル
(BH)
G Oe
erg/cm3
磁界の強さに対応する空間の磁束密度 テスラ
(μ0H)
T エルステッド Oe 1T =104Oe 1Oe=10-4T
磁化 M アンペア毎メートル
(M =J /μ0
A/m ガウス
(M =4πJ )
G 1A/m=103G 1G=10-3A/m
磁気分極 J テスラ
(J =μ0M )
T ガウス
(J =M /4π)
G
起磁力 Fm アンペア
(Fm =HL )
(Um =H△L )
A ギルバート
(Fm =HL )
(Um =H△L )
Gb
Gi
Gilbert
磁位差 Um
パーミアンス P ヘンリー
(Φ / Fm )
H マクスウェル毎ギルバート
(Φ / Fm )
Mx / Gb
磁気抵抗 Rm 毎ヘンリー
(Fm / φ )
H-1 ギルバート毎マクスウェル
(Fm / Φ)
Gb / Mx
磁気エネルギー E ジュール
( BH・AL )/ 2
J エルグ
( BH・AL )/ 8π
erg 1J=107erg 1erg=10-7J
磁気吸引力 F ニュートン
( B2A )/ (2μ0)
N ダイン
( B2A )/ 8π
dyn 1N = 105dyn
(1N = 0.101972kgf)
1dyn = 10-5N
(1kgf = 9.80665N)
パーミアンス係数 Pc 無名数 無名数 SI単位系とCGS単位系は同一

 

■まとめ 磁束密度を考えることは磁石選定で大変重要です。

以上、磁束密度について解説しました。実際に磁石の選定や設計を行う場合、磁束密度を適切に考慮することは大変重要です。しかし、磁石や磁気に詳しい専門家でないとバランスの取れた磁石の選定は難しいものです。もっとも、経験豊富な専門家に頼る場合でも最低限の知識を学んでおくと話がスムーズに進みます。

 

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